降る雪に願えるなら 7
斎藤が再び連絡することを予感させてから一週間。
千鶴は暇さえあれば携帯を握り締めて液晶のパネルを眺めてきた。
必ず出ると約束したそれを逃したくない。
学校帰り、一人で歩道橋を渡っているとついにそのときが来た。
「はい、雪村です」
ワンコールで出ると待ちわびていた落ち着いた声が聞こえてくる。
「今、話はできるか?」
「大丈夫です」
「…先日はすまなかった。お前や武芸大会でお前の連れの言ったことに覚えはないが気にかかっていることはある。一度会って話をしたい。できるか?」
「はい!もちろんです。いつですか」
「では、明日の…少し遅いが六時からは空いているか」
「私は良いですけれど…」
「どうした?」
「平助君と原田さんがどうなのかはわからなくて…」
「あの二人も来るのか…」
受話器越しではっきりしないが斎藤の声に面白くなさそうな響きが混じる。
「駄目…ですか。三人で会うほうが色々話せると思うんですけど」
「お前がそうしたいならすればいい。しかし時間は明日の六時だ」
つまり、平助や原田のうち都合のつく者だけ来いということらしい。
千鶴が二人に伝える旨を話すと斎藤は喫茶店の店名とその最寄り駅を言う。
いくつか離れたところにあるその駅名は千鶴が充分覚えのあるものだった。
そう離れていない街に斎藤がいる。喜びがこみ上げる千鶴の鼻先につっと冷たいものがあたった。
「あ…雪…」
受話器を耳にあてたまま降り出した雪を見上げる。
「ああ、降り出したな」
同じ雪が降る空の下に斎藤がいる。
頬に落ちる雪と取り囲む空気は冷たいが千鶴の胸には暖かいものが満たされていく。
過去の斎藤はよく千鶴と雪の降り出しを見たがっていた。その機会は数える程も得られなかったが。
今、隣にいるわけではないけれど。
雪の降り出しを共に迎える位置に戻ってきた。
そしてまたここから始まっていくのだ。
斎藤が思い出すにしろ、出さないにしろ。
千鶴の目元に落ちた雪は暖かな涙に溶けて形を失った。
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続き>
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6.5話とでも言うべきか。
視点が変わるのでページ分けただけです。
だからいつもよりページ短いです。
1 でチラッと話中に出したけど
この転生パロの千鶴の過去生は 斎藤ルートイベント前倒し(羅刹化ナシ)
伏見奉行所襲撃からはノーマルルート な感じだったりします。
羅刹化ナシにこの二人がくっつくのは困難な気もしますが。どうせだしご都合主義です。