降る雪に願えるなら 14




※このページは艶表現ありです。
SS程度の短さで抜かしても読めますから苦手な方は飛ばして下さい。







 無数の夜の光を背景にして握り合った手の感触を想いながら眠りに着く。
 いつの間にか、脳裏に浮かぶイメージは夜景から静かな日本家屋に移っていた。


 熱い抱擁に布団は乱れ、敷布の皴に押し付けるように掴んだ手がしっかりと男の手を握り返す。 
 唇を合わせながら着物の合わせを解いてゆく。
 露わになった肌に男の束ねた髪が落ち、頭の動きにあわせて白い肌の上を滑る。
「一…さ…」
 くわえていた乳房の先端から唇を離し、呼ばわる声を発した口を塞いだ。
 一段声を低く小さく抑えて斎藤は跨いでいる女の耳元で囁く。
「静かに、幹部はともかく隊士に事が漏れると士気にかかわる」
 幹部として隊士の忠誠と戦意の向上に日々努力してきたというのに、今行っている行為が露見すれば隊士からの信頼は地に落ちることだろう。
 腕の中の女に変わろうとしている少女はその言葉に納得いかなかったらしく斎藤に反論する。
「幹部の皆さんに漏れるのも十分困ります」
「尤もだ」
 囁きついでに彼は体と比べるとひんやりとした耳朶を食む。
 外から聞こえる音はなく、絡み合う二人が織り成すと吐息と湿った音が布団で遮られた内の世界を支配する。
 しばらく互いに触れ合い戯れあって、刻の感覚は薄れていった。睦みあってどれくらいの時がたったのか、今は一体何の刻かすら。
「…千鶴」
 事を決定的に進める前に、斎藤は千鶴の顔を見つめた。
 障子越しの月明かりで朧にしか見えない表情は陶然としながら斎藤の瞳を捉える。
「…本当に…いいのか…?」
 多くの意味を含んだ問いだった。
 このまま、関係を結んでしまっていいのか。数知れぬ、血を知っている腕に抱かれていいのか。自分で、この期に及んでいいのかと惑いもする自分でいいのか。
「受け止めたいんです。一さんを、全て」
 掻き抱いた体はその言葉通り、斎藤の全てを受け入れた。
 猛る体も、浅ましい情欲も、志のために犯した罪も、こうしている間も動く時代への不安定さも、ただ隊の刀であるため滅私を極めた己も。
「…っ」
 最初押し殺した声は苦痛だったろう。
「…あ………んっ」
 やがて漏れる快楽の声を堪えさせた。
「一さん、愛しています」
 小さく密やかに告げられた言葉へ、応える代わりに口付けを落とした。
 愛している。
 言わなくとも腕の中の千鶴にはわかっていることだ。
 千鶴への、言葉にできないほど狂おしい愛情も。  彼女は斎藤の全てを受け入れたから。



<戻る   続き>
*----------------------------------------
本来なら15話冒頭になるべきなんですが。
回避用に分けました。
ゆえに短いです。

どーやったら色っぽい表現をできるのものか修行中。